管渠布設の勾配・曲線
推進工法を採用して布設される管渠(ヒューム管)は、発進立坑からマシンがスタートして到達立坑にゴールする、と言うと荒っぽいですが、推進距離が短くても長くても同じ動作を繰り返します。工事を計画する条件が多岐にわたり異なることにより、”過酷な施工条件”とか、”難しい工事”とか、言われることがしばしばあります。
半世紀以上にわたり工事が行われて、”難しい工事”が経験を重ねられて、”難しくない工事”に思われがちな気がします。実際は、今でもどの工事でも”易しい工事”は一つもないと私は思います。その”難しい工事”とされる1つの施工条件は、”管渠には勾配をつけている”ということです。水平(レベル)で施工することも当然ありますが…。坂を登る→上り勾配がありますよね。歩くことや車では勾配があっても前進できますが、推進工事では、マシンで勾配を作りながら元押ジャッキで押し進めています。マシンはバックすることはできませんので、やり直しには苦戦を強いられます。ほぼ一発勝負です。
管渠の勾配は、布設するものによって大きく異なります。
上水道の管渠布設工事や電力供給のケーブル施設工事はヒューム管を押し込んでいく際に高低差(勾配)をつけてから本管(ダクタイル管など)を挿入します。また、下水は立坑部分に人孔(マンホールの部分)を布設しますが、このマンホールの間を下水が自然に流れるように工事の計画段階から勾配をつけています。そして、電力用のケーブル施設は、すでに地下に埋設されている上下水道管やガス管を避けて管渠布設を計画するので、必然的に勾配やカーブをしなければなりません。よって、上水道・電力用の管渠布設では、勾配がキツイことが多く、下水道管渠布設では数パーミリというような緩い勾配になります。
地中で勾配をつける??
下の図をご参照ください。(説明図にしては分かりづらいかもしれませんが…)
推進工法で使用するマシンは左右に方向制御するジャッキ(方向修正ジャッキと呼ぶ)が装備されていて曲線で計画されている線形条件を曲げていますが、上下もこのジャッキの伸縮で上向きや下向きを行っています。方向修正ジャッキの左右の下部を伸ばすことによって、マシンの先端側を上向きにしながら元押ジャッキで押し進めます。この時は上り勾配を施工することになります。マシンは重たいので、自重で沈んだり方向制御はこの方向修正ジャッキで行います。同じように上下に装備された方向修正ジャッキを伸縮させて左右に曲げるカーブ推進を行っています。実際の施工では、マシン内部に設置されているターゲット板に発進立坑からレーザー測量機で計測しながら掘進していて、マシンの向きを確認しながらかじ取りをしています。管渠の線形で法線上に上り下りの勾配がある時は”レベルの計測”が重要になっていきます。
とにかく、勾配も曲線もマシンを曲げる行為をオペレーターが掘削しながら行うところは、車の運転のように前は見えない、道なき道という全く異次元の状況で数百メートル推進するですから、機械屋は感心するしかないところなのです。